BLUE GIANT

 コンビニで買ったかぼちゃプリンが祖母の香水に似た匂いがして、味もそんな感じだったので驚いた。全然美味しくなかったけれど勿体ない精神で完食した。何という香水なのか分からないけれど、たまに同じ匂いを嗅ぐことがあって、その度に祖母を思い出しては苦い気持ちに陥る。

 祖母の話はこれまで何度か書いたかもしれないけれど、確認が面倒なので思うままに書く。

 実は祖父との結婚前に別の人との子どもを産み、知人に託していたと判明したのは祖母の死後からしばらく経った頃のこと。祖母には娘が二人いたけれど、その他に息子がいたのだ。その人は私たち家族と同じ街に住んでいたらしく、彼が亡くなったことで土地やら相続に纏わる話がうちの母(祖母にとっての娘)の元に届いた。母はたいそう驚いていたし、きっと祖父も何も知らないまま亡くなったと思う。何故最後まで黙っていたのか、理解に苦しむ。母は弁護士に頼るなどして複雑な手続きを済ませたらしい。それを聞いたとき、祖母が幼い私に言った「良い男はやめておくんだよ」という台詞が蘇った。未就学児だった私には祖母の言葉の意図が分からなかった。でも今考えると、ひょっとすると祖母は良い男に悩まされたのかもしれない。祖母は何度も「お前が男の子だったら良かったのに」と私に言った。「お姉ちゃんは可愛いのにねえ」と、姉のことは可愛がるのに私のことは邪険に扱った。男の子の孫が欲しかったなら、じゃあ何で男の子を手放したのか、私には分からない。おおかた相手に逃げられたとか当時の経済状況では育てられなかったとか、そういうことなんだろうけど、分からない。それとも男の子を手放したから男の子の孫を欲しくなったのだろうか。

 祖母も祖母の次女(私にとっての叔母)も精神的におかしな人で、家から物がなくなる度に私たち家族を泥棒扱いした。姉は責められないのに何故か私にだけ怒鳴りつけたり胸倉を掴んだりして、それが小学生だった当時は悲しくて悔しくて理解不能だったけれど、今なら病気のせいなんだなと思える。でもそのとき抱いた憎悪はいつまでも消えなかった。祖父が死に、祖母が死に、叔母が精神病棟に入院し、施設に入所し……そういう変化が起こる度に一つずつ解放されていくような気がした。でも完全には解放されていなくて、母の歪さに直面する度、自分のおかしさに悩まされる度、血の繋がりを感じてしまう。血のせいにするわけじゃないけど、そういう系譜が脈々と続いているんだと思う。被害妄想がひどく、宗教などの他者に救いを求め、依存するところ。私が姉を好ましく思うのは、姉にはそういうところが一切ないから。もちろん父にもない。

 姉はアニメを見ても特定のキャラを好きになることはないそうで、それが時折羨ましくなる。私はすぐに好きになる。これが単なる好意ならば良かったかもしれないけれど、妄執的というか盲目的になりがちだから、たまに苦しくなる。漫画を追っていて、好きなキャラが登場しなくなったり傷ついたりすると苦しくなるし、人気投票で一位にしてあげられないのも苦しい。私の好きなキャラを蔑ろにする読者を目にすると苦しくなる。

 ライトファンでいることはある意味楽だなと思う。ライトに楽しめる作品に出会えたとき、至上の喜びを感じる。『Dr.STONE』がそれに該当する。どの主要キャラも平等に好きだし、純粋な目で物語に浸ることができるので心から楽しいと思える。フラットに見ているからか、グッズを集めもしない。ただ漫画とアニメを見るだけ。それがとても楽しい。ランダムグッズほどしんどいものはない。

 だから映画『BLUE GIANT』を観ていたく感動したけれど、深くハマるのが怖くて漫画に手を伸ばせずにいる。三人の主要キャラが大好きになったけれど、この好きを深めたくない。でも一週間限定でリバイバル上映があるので絶対に観に行きたい。もうじき発売される円盤も本当に楽しみ。


 ▽通常上映当時に書いたメモが残っていたので、ここに載せておく。


 まんまと沢辺雪祈くんを好きになってしまった。大くんも玉田くんも良いんだけど。玉田はドラム辞めちゃったのかなあ。あんなに骨身を削って打ち込んでいたものを、すっぱり辞められるものなんだろうか。玉田はあの後どんな人生を送ったんだ、玉田、玉田、玉田……。

 JASSの三人の関係性は、ともすれば希薄と言えてしまうところが個人的には新鮮で良かった。空港に見送りに行かないところなんてまさにそう。お互いに全然執着していない。音楽を通じてこそ繋がり合える関係。素晴らしい。世界一を目指す大にとってJASSはスタートラインで通過点で刹那的なんだけど、ファーストライブのモノローグの「このステージを一生覚えておこう」は本物だった。だから永遠。JASSは永遠!

 雪祈くんの名前が素晴らしいという話もしたい。雪に祈ると書いて雪祈。天才的なネーミングセンスに脱帽。スカしてて嫌な奴だけど実は繊細でピアノを愛していて感情表現も豊かで可愛い。雪祈の怪我、爆速で治らないだろうか。雪祈の怪我のことを考えると本当に悲しくなる。あと雪祈がピアノと人格を否定されるシーンも本当に痛い。それらは雪祈の今後の人生において、なくてはならないイベントだったのかもしれないけど、それにしてもしんどかった。雪祈の怪我について考えていたら、ハチクロのはぐちゃんを思い出した。

 ……と、ここまでは二回目の鑑賞後に書き散らした。三回目を観て、やっぱり玉田が好きだなと思った。最後のライブのソロがいくら何でも格好良すぎた。大のサックスは最早言うまでもないかもしれないけれど熱くて全身で吹いていて良い。これぞ努力型天才。雪祈のピアノは叙情的で良い。皆大好き。ジャズプレイヤーは踏み台のためにバンドを結成・解散すると雪祈は言うけれど、JASSには再結成してほしいな、しないだろうから原作に手を伸ばすことができない。玉田はドラムやめちゃったのかな、玉田玉田玉田……。三人の中では玉田に最も共感できる。大と雪祈は理解こそできるけど共感は難しい。雪祈のスピンオフ小説『ピアノマン』も読みたいんだけど、玉田のスピンオフ『ドラムマン』とか出ないかなあ、出ないか。玉田にこんなに興味があるのに彼の人生を知れないのが寂しい……原作を読めばいいんだろうか。恐ろしくて読みたくない。

 勝つためにピアノを弾く雪祈と、お客さんに伝えるために・世界一のジャズプレイヤーになるべくサックスを吹く大と、そんな二人と一緒にやりたいからドラムを叩く玉田。思えば最初からバラバラだったんだよなあ。玉田は高校までサッカー部で打ち込んでいたことからも分かるように、仲間と共に目標に向かって邁進することが好きなんだろうなと。そうなると中高時代にバスケをやっていた大はどうだったのか、とても気になる。東京に出てからの大は、ある意味利己的というか、ドライに見えるから。「玉田が頑張ればいいんだべ」と言った大と、「俺たちのためにか」と言った雪祈では、やっぱり大の方が酷なことを言っているように聞こえた。高校までの大と玉田の関係性が分からないからそう思うのかもしれないけど。