いつかの日記

 朝起きて窓を開けると白かった。それほど分厚く積もっているわけではなかったけれど、マンションの駐車場を出ていく車たちがガリガリと嫌な音を立てながら出ていく上に、救急車のサイレンがすぐそばを通り過ぎていくのを聴いてしまい、嫌な想像が駆け巡った。潔く車を諦めることにした。今の職場に勤め始めて八年半、初めての徒歩出勤だった。

 嫌な想像、というのはあくまでも車による事故だったので、徒歩ならば私は平気だろう、と謎の自信を携えて外に出た。ローヒールのパンプスで意気揚々と歩く。ふかふかの雪の感触が楽しい。歩道に残る自転車の車輪や犬と思しき足跡を見下ろしながら、「この道を自転車で走ったのか!?」「こんな日に散歩をしたのか!?」などと信じ難く思う。横断歩道の白線が完全に覆い隠されている中、信号に向かって歩く。意外と普通に車が走行していることに驚く。ワイパーを立てたままの車、ルーフとボンネットとドアミラーに雪がこんもり載った車、低速の車、高速の車……どの車も共通して、ガリガリ音を鳴り響かせていく。

 歩道にはスケートリンク状と化した箇所もあった。そこは流石に慎重に踏みしめたが、にもかかわらずツルッと滑った。何とか転倒は免れた。そんなことが二度ほど続いた。パンプスで雪道を歩くのは危険、という知見を得た。高校生の頃も雪解け後にローファーで何度も転んだなあ、と懐かしい思い出に浸りもした。

 四時間だけ働いた。

 帰りも徒歩で帰ろうと職場を出たところで、車を運転する同僚から「乗っていきな!」と声をかけられた。「すぐそこなんで大丈夫です」「いいから!」あまり何度も断るのもなあ……と思い、ありがたく自宅近くまで送ってもらった。


 業者が便座の交換をしている間、ドラマ『女神の教室~リーガル青春白書~』を観る。話数が進んでも尚、登場人物たちのキャラクター性をいまいち掴みきれないのは何故だろう。「小倉さーん」業者に呼びかけられた。ドラマを一時停止したつもりが巻き戻しを押してしまったようで、もたつきながら「はーい」と答え、慌ててマスクをつけてトイレへ向かう。「作業が終わりました。見ていてください」「はい」業者がレバーを回すが、水が流れない。「あれ?」便座を開ける業者。「壁と床が……」どこからか流れ出た水でびしょ濡れになる壁と床を指せば、「あれ?」と業者。どうしたら良いのか分からないまま佇む私。タンクを開け、ホースを繋ぎ直したりドライバーを回したりタオルで周辺を拭いたりと、忙しなく動く業者。ここに居続けて良いものなのか、それとも部屋に戻るべきなのか分からないまま佇む私。

 遂に水が流れ、ウォシュレットも無事に使えることを確認。「ありがとうございました」「何か他に困ってることありませんか? トイレ以外でも」「いえ……特にありません(この人はトイレ専門の業者じゃないのか?)」帰り際に玄関に置いてあるヘルメットを一瞥する業者。「工事現場?」「防災用です」業者が帰っていった。ドラマの続きを観た。


 マクドナルドにかみこのフルーリーを買いに行きたくなったけれど、路面がまだ乾ききっていないことを鑑み、近場のコンビニでおやつを調達することで我慢する。バニラアイスに小枝を入れて食べたらフルーリーに近い味になるかな?と考えながらお菓子売り場へ行く。小枝が売っていなかったので、疑似フルーリーは諦めてハーゲンダッツのショコラデュオを食べた。美味しかった。ここで節約意識が遠退いてしまったのか、夕食はデリバリーを頼んだ。ハンバーグ、美味しかった。